• 08 «
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • » 10
スポンサー広告
スポンサーサイト
-----------
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
page top
 相変わらずパソコンさんがむにょりむにょらだ。
 
***
 埼玉県立近代美術館でやっているアンドリュー・ワイエス展に行った。渋谷でワイエスをみたの、本気でこないだだと思ってて、今年の1月くらいだったかな、って思ってて、でもなんだかどうやらあれは2008年のことのようだった。ぼんやりしてたら二年たってた。ちょっと信じられない。
 前回も「カモメの案山子」をずっと見ていたけれど今回もずっと見ていた。うっとりしてしまう。オルソンの家、きれいだった。ワイエスの絵は世界の終わりみたいだな。世界が終わってほしいって言うときのあの世界の終わりとは真逆の。こんな風に世界が終わるならそれは確かに怖いなと思う。綺麗だなと思う。曇り空がまぶしい。雨に溶けていきそうなのでさみしい。おでこにこつんと当たった壁が、どこまでも続いていたようだった。

***

 埼玉県立近代美術館の周りをうろうろしていた鳩たちが丸かった。まんまる。

***

 そういえばワイエス展には犬に踏まれて足跡だらけになっているスケッチがあったけど、犬の絵は一枚もなかった。どこからきたんだろう。

***

 このごろ猫の名前をよく聞かれるけれど、言わない、のだ。メールアドレスに銀行口座の暗証番号をいれていたこともある私だけれども、ねこのなまえは、言わない、のだ!

***

 「焼きたいからフライパン貸して」って先輩からメールがあった。今までずっとなまにくとか食べてたのかなあって思ったら涙がこみあげてきた。

***

 冷蔵庫を開けたら賞味期限がとっくに切れている牛乳が未開封のまま転がっていた。沸騰すれば飲めるのかなあと思って開けたら嫌になっちゃう匂いがした。流しにだぶだぶぜんぶ捨てた。だぶだぶ牛乳を流している間に私は今日の曜日を思い出そうとしてとてもいつも失敗していた。土曜日と木曜日のあいだあたりなんだ。世界をもっとみるきーにするべく私は、この地上三階蛍光灯の切れた台所で、牛乳を注いでいるのですってぼそぼそ言って、汚れていくシンクを見ていた。蛇口に乗った水滴が暗がりの中でひりと光っていて、硬そうだなあなんて思った。もっとよくわからないものにしたい。乳白色にかげらせてぜんぶバターにして逃げきれるかやってみたい。空になった牛乳パックをぺこりと潰して、振り返ると窓からの明かりがテーブルにくっきり四角く、誰かの怒りのようにそれが綺麗だった。

***

 逃げられない気がした。
page top
パソコンさんがインターネットにつながってくれないのでしょんぼりしている。携帯電話で打っている。パソコンさんの前で正座しながら一心不乱に飴を舐めているのだけれど、これはもしかして飴を舐めているだけではなおらないのではないかって、気づき始めている。おとといからずっと猫に向かって勝手にさわったでしょー、って話しかけている。パソコンさんに謝ったりしている。謝罪の歌をうたったりしている。猫の爪を切ったりしている。
ぱ、パソコンがインターネットにつながらないよ!

***

うかうかしていたら終わっちゃうので、忘れずにワイエス展に行かなきゃならない。こないだ渋谷でアンドリュー・ワイエス展があったとき、行ったけど、私すごく、好きだったから。

***

通っている大学でお祭りがあって、呼び出されたので一度行った。外国人のおじさんが芝生に座り込んで太陽に顔を向けて目をつむって、ビール瓶を抱えて、レイラ歌ってた。いいお祭りだなって思った。

***

彼女の青白いカーペットを踏みながら、その青白いほつれから目を離せなくなりそうに、なりながら、私はだれもいなくなった部屋を片付けた。輪ゴムと、クリップがいくつもでてきて、ああ、と思った。ゴミ袋にいれたらばらばらばらって音がした。ばらばらばらってほどけていく。小さく銃撃されるみたいな音だった。くだらないものしか出てこない部屋で、すべては青ざめていた。羽が欠けてる扇風機を、思い切り蹴っ飛ばして笑った。ばかやろう。それじゃあね。
page top
 学校とアルバイトのあいだのうらぶれた昼の3時間、円形の大きな公園で小さなおにぎりを食べて、日なたに座っていた。鳩と鳩にクッキーをやるおじいさんがいて、やけにあたたかく、とても眩しかった。私は眠って、そのあいだに1時間が経った。目を開けたら葉っぱが降っていた。鳩と鳩にクッキーをやったおじいさんがまだいた。なんという季節だと思った。葉っぱがさんさん降り続いたから、私と私の開きっぱなしの鞄はうずまっていった。たくさんあるなと思った。たくさん、たくさん、たくさんだなと思った。とてもじゃないけれど息ができない。真っ赤な葉が日光をきらんきらん反射して落っこってきたので、物分りよくポケットに引き受けた。頭の中身はめいっぱいの砂糖と塩で、胃の中身は枯れ葉で、肺の中身は砂で、そこは日差しのなかだった。

***

 そんな風にしていたら、世界ぜんぶから置いていかれちゃうよ、と言われて、私は、置いていってくれって言って笑ったけど、そんなことぜんぜん、言わない方がよかっただろうな。そんなことぜんぜん、言わないほうが、いいのだろうな。本当に、そう思っているのかな。
 そしてだけれどちっとも、世界は進行なんてしていかないんだと思うんだよ。
page top
 友川カズキというひとのライブを観にいった。開演前、壁際の椅子でうとうとしていたら横に座った男の人がなにか喋っていた。すこしも聞き取れなかったから、私に話しているのではないだろうという確信を持ってそちらを盗み見たらすごく目が合って、私に話していた。ふわふわした世間話をした。私は三秒に一回嘘をついた。おじさんは「会えてよかったよ」と言った。いつか、ユダヤ人の研究をしている工芸家とライブハウスで会ったら、私もそう言おうと思った。
 桜井さんが来たので桜井さんの隣に座った。アボカドとみかんを渡した。
 友川カズキが出てきて、たくさん喋って、死んだほうがよろしい、ってたくさん言っていた。友川カズキが歌ったとき、あまりに声が違うから、どこからきこえるんだ!と思って友川カズキを探したのだけれどどうやら友川カズキはひとりだった。おそろしいはなしだと思った。ドラムも鍵盤もめろめろでかっこよかった。めろめろだった。
 あと特になにも言うことはないけれども、友川カズキはかっこうよかった。
 外に出たら寒くて、首が引っこ抜けそうだった。背広ってあったかいんですかってきいたら桜井さんはぜんぜんって言ってた。そうなのかと思った。食事をした。グラタンがとてもおいしかった。アボカドのせいで鞄がしまらないので困って、がさがさ整理していたらプリントの束をホチキスでとめたのが折り曲がってよれよれになったのが出てきた。桜井さんが「ごみだ」って言った。私は、ちがうよ使うよと思って鞄に戻して、がさがさした。もういっかいそのごみみたいなのを取り出しとき、桜井さんが「ごみだ」って言った。ごみだと思った。
 船に乗って帰った。

***

 家まで電車で三十分、という乗換駅に、たぶん最終電車がやってきて、それは超満員だったので、乗れなくはなかったけれど、なんだかぼんやりした気持ちだったから、いいやと思って電車のドアが私を置いてしまっちゃうのを辛抱強く待った。電車が行ってしまったあとで、あららと思って駅を出た。
 久しぶりに降りる、光の少ない駅だった。ファストフード店の窓だけがぴかぴかと光っていた。あそこで眠ってしまおうと思ったけど、その駅にひとり知っている人がいるのを思い出した。時計を見たら一時をすこし回っていて、十歩分くらい迷ったけど、電話をかけて、もしもし、おひさしぶりです、今駅にいるんですけれど、コーヒーとか飲みません、って言った。三十分待ってて、と電話の向こうのひとがいった。
 もうバスが来ないバス停で本を読んで待っていたらそのひとが来た。おじさん、って言ったら、真夜中に社会人を呼び出す学生っていうのはね、サイテーだ、って言われた。自由人じゃないんですか、って言って、ごめんなさいって笑った。
 おじさんはおじさんの店の鍵を寄越しながら、中で座ってて、なんか甘いもの買ってくるから、と言った。本を読んで待っていたらおじさんがあんまんとケーキと栗をコンビニの袋に詰めて到着した。元気にしてんのかと訊かれて、学校やめちゃおうかしらと言ったら、今度こそかとおじさんは笑った。
 おじさんは私にあたたかい紅茶を淹れてくれて、自分はコーヒーを飲んでいた。部屋に音楽をつけてくれた。マレイ・ペライアのベートーベン、それが終わったらカザルスの無伴奏チェロだった。順番さえ変わらないのだなと思った。ピアノは上達しましたかって訊いたら、それなりにと言っていた。来年にでもどこかに行っちゃおうかと思っているっておじさんは言った。どこまで本気かわからなかったけど、それじゃ会えてよかったと言った。まあねとおじさんは言った。
 店の床にねっころがっていたらおじさんもねっころがっていた。不謹慎な言葉でしりとりをしようと言い出したのでその懐かしいゲームをした。三回目の「う」で私が思いつかなくて「うー、うー、」と言っていたら寝息が聞こえておじさんは寝ていた。ほんとに悪いことしたなと思った。いつも、思うには思っているんだよな、とひとりで思った。屋根をばちばち雨が叩く音がした。午後からアルバイトだから、帰らなきゃならないなと思って、時計を見たらもう電車は動いていた。
 机においてあった焦げ茶色のメモ帳にさがさないでくださいと書いて、あくびをして店を出た。ひどい雨だった。私の鼻先で夜を縫っていた針がぱきんと折れて、糸は散々ちぎれた。暴風は暴風なりに朝の眩しさだった。駅まで歩いて凍えた。室内には暖房が入っていたと気づいた。雨も降っていなかった。

***

 家に帰ってシャワーを浴びていたら電話がかかってきた。それはバイト先からで、台風がきているから今日は店を開けないと言われた。そうですかって電話を切った。窓の外では天気がうんうん唸って、あたり一面の糸を散々ちぎっていた。なんだか見送られる船に見えなくもなかった。
page top
 大学の中にある林でねっころがって本を読んでいたら、気持ちがよくなっちゃって、本を顔にのせてむうむうと北極のことを考えていた。でもそこはうっかり保育園か、それか幼稚園のひとのお散歩コースだったみたいで、そのうちたくさんの園児のひとたちが先生に連れられて歩いてきた。先頭の先生が寝っころがっている私を見つけて、眠っていると思ったのか、「しーっ!しずかに!」って言った。幼児のひとたちは列をなして歩いて、私の横を通るときだけ静かにしていた。私はけんめいに寝たふりをして、本がずり落ちないように頭をぴくりとも動かさずにいて、この、じょうきょう!って思った。あくしでんと!って思った。
 みんな通りすぎちゃったあとに、そっと起き上がって、おそろしいこともあるものよってどきどきして、ひとびとが去っていった方を見たら、列の一番後ろの男の子がこっちを振り返っていて、目があっちゃった。
 手をふられたので手をふった。

***

 おともだちが、ケースに入った私のコンタクトレンズ(はーど)をずっと見ているから、どうかしたのって訊いたら、おいしそうだねって言っていた。私はコンタクトレンズをそんな不純な目で見たことがなかったから、びっくりしてあらためてコンタクトレンズを見てみた。まずそうだった。舐めたら甘そうじゃない?とおともだちが言った。舐めてみる?って訊いたら、うんって言うから、おともだちの手の届かないところにコンタクトレンズを置いた。

***

 「どこにだって来てくれる?」と受話器の向こうでだれかが言った。聞きなれた声に低速の心で、「そんなに遠くないならね」とこたえた。
 「ここはでもアメリカなんだけど・・・」って言う声の後ろで、中央線の発車のメロディがたららたららと鳴っていた。
 それはちょっと遠いなって私は笑った。

***

 それはちょっと遠いなって言ってばかりだな。誰かの裾をつかみながら、それはちょっと遠いなって笑うのは、間抜けだろうな。優しくするには遠すぎるって、ほんとうには思わなかっただろう。逃げ回るために世界はひろくて、私はいつでも笑ってしまえる。
 電車の中、窓の向こうで鳥たちが太陽にばさばさ飛んでいくのを見つけて、死んだうさぎみたいな温度で私の情熱がことこと揺れた。夕陽の一番暗いところがゆっくり車内に滲んでいって、私の内臓をぜんぶ血色のたんなる光にしてしまった。だからくずれていきたかった。標本の虫みたいに夕陽でここに縫いとめられたかった。そしてそのあとで私の上に、私を許さないあらゆるものが、燦燦と降り注げばよかった。
 電車は今日もほしいままの速さで走り、私をすんなり連れ出してくれた。
page top
Copyright © 2017 八帖帳の犬. all rights reserved.

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。