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 他人は、地獄だって言って女の人が路上で泣いてた。知っている人だった。知っているだけだった。どうしたんですかって声かけたけど、そのひとは私のことなんて覚えていなかったし、ひどく酔っていた。「愛の深さを知って欲しいよ」って言ってた。
 愛の深さなんか、どこにあるっていうんだろうと思って、私はしゃがみこんで、女の人と同じ高さで、なんとなく手のひらを向けながら、寒くないですかなんて言った。愛にあるのが深さじゃなくて、なんだか、照度とか、高度とか、そういうものならいいのに。豆電球みたいに暗い愛や、くるぶしのあいだを縫うような低い愛があればいいのに。深さと重さ以外にしようよ。なんにもできないよ。そんなのじゃ、なんとなく肩を叩いたりもできないよ。水没と埋没と沈黙しかないよ。私はポケットに手をいれて、浅くて軽い愛を探そうとして、たとえばキャラメルとか、チョコとか、なんだかそういうものを探していたと思うけど、コンビニのレシートしか入っていなくて、だから、そこには女の人の抱えた深い愛と、埃としての私があった。
 迎えに来てくれる人いますか、とか、送っていったほうがいいですか、とか、だいじょうぶですかって、私なんだかそんなようなことをきいたけれど、女の人はまともに答えないで、ずっと、だれかの名前を呼んだり、それから、地獄だって言った。他人は地獄だって言って泣いてた。私は地獄としてそこに立っているのかと思った。私はだから地獄じゃなくなるならどんなに軽薄でも浅薄でもいいのにと思った。でもたとえば私のこの細い視線がちゃんと地獄なのだとしたら、それは、それはそれは私は立派な地獄だろうと思った。私は他人にとってちゃんと地獄だったろうかと思った。他人は私にとってちゃんと地獄だったろうかと思った。知らないよと思った。地獄なんか見たこともない。現実以外ならなんだって見てみたいよ。ばかばかしいよ。ばかばかしいよ、なんでそんなに泣くんだよ。泣きたくなっちゃうよ。おねがいだから、もっと、夢みたいに居てほしい。だれもが。ばかばかしいのは、それはもちろん、私だけど、でも、別に地獄を望んでるわけじゃ、なかったよ。ちがうかな。わからないけど。せめて地獄としてあなたがいて私がいたら、私は自分の醜さにちゃんと苦しめるくらいには、うつくしくあれたりしたのかな、なんて。
 女の人の家が遠くもないみたいだったから送っていった。あがっていって!って言われたけど帰ってきちゃった。最悪だよって女の人は何回も言ってた。最悪なんですかって訊いたら、あんたのことじゃないよってあんまり強く返されたものだから、思わず笑っちゃった。私のことじゃないのか。それは、そうだ。おやすみなさい。あなたも私にとって、地獄じゃない。なにもない場所で、私はなんということもなく、やさしいわけでもなかったし、そして私は必死でそれを願ったりしたんだった。私は、そうなんだよ、そんなことを平気で願うんだ。そんな程度のキャラメルだった。キャラメル程度の夜だった。ああ、いったい、どうなってるんだろ。玄関が暗くて、女の人の靴につまずいた。おやすみなさい。泣かないで。そこは天国みたいな部屋だよ。
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