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 ひさしぶりに風邪をひいて、頭痛と吐き気がひどかったから、コンビニで箱買いしてきたウィダーインゼリーを飲み続けていた。ウィダーインゼリーを飲み続けていたら気管支炎がやってきてそれから喘息がやってきた。私の体はもっと私に協力的であるべきだよって思った。病院で看護婦さんが注射を打ってくれたけど、注射針が三回血管でないところに刺さって泣きそうだった。看護婦さんも。もうおへそから上の部分を全部ぶん投げたかった。これはまずい、なにかをひとつ間違えたら死にそうだと思って慎重に寝転がった。隣の席で遺書を書いていた男の子がいたなと思った。高校一年生のとき。わりあい仲がよかったから、なに書いてるのってなんとなく訊いて、そしたら、遺書だよって言うから、ルーズリーフに・・・ってびっくりしたのだった。「俺は年一回遺書の更新作業をしているんだよ。6歳から」と彼は言って、遺書を更新していくというのは何かとてつもなく底抜けに明るいことみたいな気がするんだ、と彼は言った。ふうんって言って私は、私にヘッドフォンかなにかちょうだいねって言って、「今年のはもう書き終わったから、来年ね」と言われて、なるほど明るいと思った。クレッシェンドなんだと思った。午後のひだまりの底抜けの明るさにてらてらと彼の遺書はきらめいていた。私はしばらくぼんやりと考えたけれど、書くことがないと思った。私の直前でとまる角度で陽の光が教室に射していて、私の上履きの横で埃がきらきらとまぶしかった、ら、よかった。そうだったらよかったのに。教室は全方向的に照らし出されて黄色くまぶしく、彼の遺書と同じ光の中にいれられて私は、口をぱくぱくして酸素や二酸化炭素と遊んでいた。なにがどうでもこうだものな、と思った。きらきらした埃に教室中ひっぱたかれて、グランドキャニオンは今日も感動的に日没して、それだから選ばれあえずに私たちはおんなじ光のなかで、私はできないことを数えて、裏からこつこつと世界を叩いて、そしていつも、なにができなくてもなんてあかるい。
 やっぱり言えることのなかった私はやっぱり言えることがないまま、ウィダーインゼリーを握り締めて、風邪をひいてるっていう、それだけのことをなるべく離さないように眠った。

***

 風邪が治ったので川に行った。おじいさんが絵を描いていた。私が後ろからじろじろ見ていたら、横に座らせてくれた。おじいさんは草の絵を描いていた。「川の絵を描いているんだと思った」と言ったら、「川の絵なんて描けないよ」と言っていた。川は何色で描けばいいのだろって言われて、私たちは川の色について話し合った。おじいさんは草をビビッドなオレンジで描いていた。どうしてオレンジ色なんですかって訊いたら、「死ぬ前にぜんぶの絵の具を使い切ってしまいたいのだけど、この色がすごく余っていて、だからこのごろはずっとぜんぶこの色なんだ」と言った。すこしずつ色のなくなる世界で私たちは暑い暑いって言って川の色について話し合った。

***

 暗くなって川沿いの道は寒かった。ぬるくなったウィダーインゼリーをにうにう飲みながら帰った。途中で、どうしてだか、土手に降りてしろつめぐさで冠をつくった。つくりながら、さすがにこれはどうかと思うなと思っていた。できた冠をそこらの木の枝にひっかけて道に戻った。振り返ると暗い中で枝にかかった花冠がゆらゆら揺れていて、さすがにこれはどうかと思うなと思った。こうがんむちだね!と思っておかしくなった。摘んで余ったしろつめぐさをコンクリートの縁に捨てた。そして私はそれを見下ろして、ほっとして頷いたりして、私ってほんとう、はしたないよなって思って、ムーンリーバーって歌って帰った。
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