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 最終電車のなかでむうむう寝てたら一駅乗り過ごして、しかたがないから一駅歩いて帰ろうと思って線路沿いに歩いてたらもういっこ家から離れた駅に着いたから私はびっくりした。なにが起こったのかよくわからなかった。地球がとつぜん逆回転をはじめたのかと思った。地域の掲示板とかをちゃんと見ていないからそういう情報がはいってこないのかな、って思ってうろたえた。きっとみんなは、この日のこの時刻からこのくらいの音をたてて地球が逆回転をはじめますからね、気をつけてくださいねって、囁きあってたんだ。いまごろ小学生なんかが夜の校庭に集まってくすくす笑いながら観察してるんだ。流星群とか月食のときみたいに。
 自販機でコーンスープを買ってバス停のところのベンチで飲んだ。最後のバスは一時間前に出ていた。たまごみたいな気持ちで、もうこのまま寝ちゃってもいいなあって思った。足が痛かったし、地球はこれから転覆するかもしれないし、だとしたらふらふら歩いてると危ないし、こけちゃうし、絆創膏もってないし、コーンスープがこぼれちゃうし。離れたところにひとつ街灯が見えて、そのすぐ隣に自販機があって、それだけで、バスのターミナルは真っ暗だった。道路に描いてある白い線がまぶしく光って見えるくらいだった。フードをふかあく被って、フードの淵のところを目で追って、虫がぎーぎー鳴いているから、この夜はあったかいんだなって思って、いろんな曲を思い出したり歌ったりした。歌うときに、まわりにだれもいないのをフードをとって三回くらい確認した。だれもいなかったから歌っていた。私はだれもいないとだいたいぜんぶできる。道路でねむれるし土も掘れるし空も飛べる。だれかがいるとだいたいぜんぶできないけど。月がぱくんと半分だった。なんだかほんとうに流星群とか、月食のときみたいな夜だなって思った。小学生のとき月食の観察をしたのを思い出していた。スケッチブックにいくつも丸を描いて、それに影をつけて一時間ごとにちょっとずつ欠けさせて、なにか一言ずつ書き込んでいくようなの。たぶん、理科かなにかの宿題だったのだと思う。とても広くてなにもない公園の、隅のほうにあるベンチで、私は一晩中空を見上げていた。小学校の校庭ではたぶん、先生が付き添ってみんなで観察会が行われていたように思うのだけど、たぶんそれは夜中の十時か、それか十一時には家に帰されてしまうようなもので、私は一晩中みていたかったから、小学校からちょっと離れた公園のベンチにひとりでいた。寒くなかったと思う。厚着をしていたせいかもしれない。ほんとうにすることがないなって思っていた。時計とスケッチブックと、鉛筆しか持っていなくて、とても暗かったから、なにもすることがなかったのだった。一時間に一度手探りで月を塗るしかなかった。その公園は遊具らしい遊具もないくせにとっても大きくて、砂利と芝生が交互にずっとずっと向こうのほうまであって、奥は暗くて見えなかった。瓶の底みたいだと思った。夜には底みたいな夜と、底みたいじゃない夜があって、その日は底みたいな夜だった。月食の夜っていうのはだいたいみんな底みたいな夜なんだと思う。あのときのほかに月食の夜を覚えてないからわからないのだけど。
 飲み終わったコーンスープを自販機脇のゴミ箱に捨てて、線路に沿って道を引き返した。地球が逆向きにまわりだしたんなら逆向きに歩けば帰れるんじゃないってひらめいたからだった。なんだか、どこにもいけないだろうって夜で、それが嬉しいのか悲しいのかよくわからなくなってしまうみたいなうすあたたかさだった。ほんとうにすることがないなって思った。スケッチブックさえない。ほんとうにみんななにしてるのかなって思った。いちばん人通りのない道を選んで歩きながら、すれ違うだれかを探していた。私にはだってほんとうにわからないんだよ。なんだかほんとうに、どちらでもよくて、青でも緑でもよくて、神様でも悪魔様でもよくて、なにがどうでもよくて、それで、月だって、欠けたって満ちたってよかったら、もうほんとうにすることがないのだと思った。欠けるなら欠けろよって月に喧嘩を売りたいみたいな気持ちだった。一本の釘にも触れずにするする降りていくピンボールみたいなふうにして、私は線路にぴったり寄り添ってするする歩いた。どこにいけなくてもよかったから、不幸がどこにあるのかもよくわからないなって思った。どっちがどっちかもわからないなって思った。私はたぶんキュウリとバナナもわかんない。奥の奥の方まで続いてる公園みたいに、巨大な空気と、半径三センチの呼吸があって、それだけ。死んでたって月くらい見える。なるべく遠くのほうに歩きたい。それでやっぱり同じようになにに喜べばいいのかもわからないだろう。家に帰って眠ろうと思った。なるべく遠くのほうの家。遠くにあることになんの意味もないようなずっとずっと遠くの家。

***

 土曜日は、吉祥寺に行ってウディ・アレンの映画を観て、それから三鷹でミュシャ展を観て、それからおうちに帰って爪を切ろうって、めんみつでかんぺきな計画を立てていたのだけど、朝に先輩から「ケーキを食べに行こう」って電話があって、爪切ったあとでもいいですかって言って、爪いつ切り終わるのって聞かれて、がんばれば16時には切り終わりますって言ったら、変態って言われた。かなしかった。朝からケーキを食べに行った。先輩のめんみつさとかんぺきさの前で私のそれはちぎれた輪ごむだった。ケーキがおいしかった。
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