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 日曜大工のやすりがけでつくった、てのひらの小さな傷に名前をつけて遊んだ。人差し指の付け根のがデネブ。生命線に沿ってるのがアンタレス。小指のはベガでその下のは土星。小指の円周が土星のわっか。握れる銀河系。握りつぶした。
 シャワーを浴びながら、見上げてごらん、夜の星をって歌った。ささやかな幸せを祈ってるって、知ってるとこだけ何度も歌って、声を張り上げて、小さな星の小さなひかりがって、怒鳴りながら、小さな白い天井を見ていた。明日は夜まで晴れるだろう。42℃のシャワーに打たれて、降ってくる熱さが信じらんなかった。信じらんない速さで皮膚に溶けていくお湯が、熱いし、湯気に、声がわんわん響いていた。小さな星の小さなひかりが。白くて固い部屋で、私はすこしかなしかったし、ほんの少しのかなしいことがあればそれで生きていけるなんて言って、馬鹿にするのもいいかげんにしようと思った。心に底があるなら、心の底から、歌いたかった、謝りたかった。泣きたかったし、笑いたかった。許してもらいたかった。つまり、傷ついて欲しかった。それは、嘘だ。信じないで欲しい。都合の悪いことは、なにもかも信じないで欲しい。戻りたいと言ったとき、それはいつも原始にということだった。覚えていないなにかになりたい。記憶の事前になりたい。それで、それは、いつだって嘘だ。
 お風呂からでたら、さっき花瓶に挿した花が猫にむしり食べられていた。そうなることは知っていたのだった。首と葉のなくなった花をごみ箱に捨てて、家の中で猫を探した。花にはあんなにごみばこがにあうよ。猫には未来がないよ。未来がないから猫が好きだ。前髪から冷たくなったお湯がはたはた落ちて、つま先までの寒さに身震いした。たぶん、寒かったんだと思う。もう忘れた。一から十まで間違えば、違う生き物にもなれると思ってた。半魚人ならなれると思ってた。半分だっていいと思ってた。目も手も、腎臓も。シャワーにだって溺れてしまう。口を開けてたらシャワーにだって溺れてしまうから、口を閉じていたい。魚になりたい、さかな、半魚人だっていい。この肌が気味悪く青ざめればいい。気味が悪いって鞭で打ってもらえるような、鱗、鱗が欲しいな。わかりやすく、一枚一枚油色にひかる、鱗が欲しいな。小さな星の小さな光が。シャワーから飲み込んだお湯が、胃の底で冷たくなっていた。

***

 ともだちが新しく越した部屋は天井の高い七畳で、窓の外に線路が見えた。電車の走る些細な振動で朝の5時が知れる、すてきな部屋だった。来る途中駅の売店で買った大福を渡したら、多すぎるよと言って困っていた。眠たくなるような部屋だねと褒めたら、季節のせいだと笑っていた。いつかこの部屋は電車の小さな振動に崩れ落ちるのだろうと思った。駅までの通りには葉桜がずっとあって、毛虫が困ると笑っていた。
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