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 第二回ポエニ戦争のとき、アルキメデスはローマと敵対するシラクサの地で画期的な兵器をたくさんつくっていた。だけど、家の外で土に図形を描いていたアルキメデスはローマの兵士に見つかってしまって、そのときにアルキメデスは「私の図形を踏むな」と言った。それで怒ったローマ兵に殺されちゃった。
 自分のことを殺せる相手になにを言えばいいのかよくわからない。剣を持ったままなにを言えばいいのかもわからない。だれかの目を抉ったりするだろうか。なにを言えばいいのかわからない。剣をそっと置きたい。私はいつもアルキメデスではなかった。だけど兵士になんか、なりたくないよと思う。将来の夢は宇宙飛行士なのです。うそです。
 図形の価値を信奉しないローマ兵に私の図形を踏むなと言ったアルキメデスは傲慢だと思う。アルキメデスを殺した兵士は野蛮だと思う。視線をあげなかったのはアルキメデスだと思う。図形なんか知らない。いつだって私は図形なんか知らない。芸術だって知らない。私はなんのことだか、いつもよくわからない。アルキメデスの頭脳はアルキメデスを救わなかった。たとえば芸術を現実的な力から、ローマ兵だか、事業仕分けだか、なんだかそういうものから救うのは、ときどき芸術のすばらしさではないんじゃないかと思う。私は私がだれなのかわからないのだけど、でもたとえば私がシラクサに住んでいたなら、アルキメデスさんが死んじゃったら困るので、アルキメデスさんが殺されないようにアルキメデスさんの代わりになにか言いたいと思うと思うのだけど、いったいどんな言葉が剣を持つローマの人との共通語になるのか、わかないよ、エウレカらないよ、図形なんていつだって、しらないけど、そう、図形なんていつだってよくわからないのだけど。アルキメデスさんの描いた図形がよくわからないラクガキにしか見えないままにアルキメデスさんを好きになっちゃうこともあるんだろうか。よくわからない。「私の図形を踏むな」みたいなことを言っていると殺されてしまうこともあるんじゃないかと思って私はこの話を聞いたときにまあ怖いわあと思ったのでした。

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 久しぶりに会った友達はもともと色白だったのにさらに白くなっていて、消しゴムと人間のハーフみたいだった。
「昨日アフリカについての新書読んでたんだけどさ」と彼は言って、「ナイジェリアってどこ?」と日本史選択の彼は言った。「俺は三百ページを読むあいだ、ナイジェリアの場所を知らなかったんだよ。ナイジェリアっていったいどこにあるの」と彼は言った。ナイジェリアって、どこにあるんだろうね、と思いながら、私たちは世界地図の上でオセロをした。

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 美容院に行って髪の毛を切った。このくらいまで切ってくださいなと私が胸元に手をちょんちょんと当てて示したら、美容院さんが櫛をすっと差し出してきた、ように見えたから、受け取った。そうしたらなんだか変な沈黙が流れて、私はなんで美容師さんの櫛を持っているんだろうと思って、首を傾げていたのだけど、美容師さんが「あ、すいません返してください」と言って、私は素直に櫛を返して、それで気づいたのだけど、美容師さんは櫛を差し出したのではなくて、「切るところはこのくらいまででいいですね」というのを櫛で測っていたのだと思う。私は、とつぜん美容師さんの櫛を取り上げる、いやな、客です!
 もう美容師さんが櫛を差し出してきてもぜったいに受け取らないぞ、と思った。道端で血だらけの美容師さんが私に無言で櫛を差し出してきても、私は一度くちびるに手を当てて状況を考える、ぞ。こうやってひとは慎重になっていくのだと思う。ちょっと恥ずかしくて死んじゃうと思った。もう髪の毛なんかどうでもいいですと思った。
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