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 蝉が夜も鳴いている、毎晩。どうしてだろう。
 線路に沿って散歩した、夜。蝉のあの、みにくい羽が私の背中をまっすぐに覆って、ひどく重たく、飛べる気がしてしょうがなくて、それが鬱陶しかった。
 閉まった店の窓に私がちらちら映るので、私の身長はあと2、3センチ低くても良かったな、と考える。雲だらけの空が誰かの絵みたいだった。なんで空が絵みたいじゃなきゃならないんだろう。だけど空は絵みたいだ。思い出は音楽みたいだし、人間は物語みたいだ。ばかだなあ。夜に散歩したら殺されなくちゃあ。それか、喋る猫に会ったり、して、ばかだなあ。だれか信じてくれないなら喋る猫はいらない。
 だれかの喋る猫を信じ、私きのう殺されたんだって話を何十回でも聞こうと思うよ。ばかだなあ、きみ、生きてるじゃない。ばかだなあ、私は人を馬鹿にする人間だよ。笑ってごめんね。もう一度その話をしてよ、もう一度その話をしてよ。私はそんな話をするきみが大好きなんだ。
 夏は、なんでこんなに神様がいない気がするんだろう。とても真面目に温度と湿度があるから、まるきり神様らしくない天気だよ。天気予報をして歩いた。明日は雨、雨、雨、雨、海になる。蝉の羽を震わせて飛べる。アスファルトが硬いなあ。硬いなあ。道路の止マレで止まった。私に轢かれたって痛くないのにね。知らないけど。痛くないかもしれないのにね。歩行者が止まるべきだと思いますか。信号のなくなった世界で横断歩道の前でずっと立っているひと。車に轢かれてしまうから、ずっと待ってる。いつか車は止まってくれますか。私は轢かれてしまうよ。それか轢いてしまうよね。だって信号がないのがいけないんだ。誰のせいだよ。夏はなんでこんなに神様不在で、蝉があんなに鳴いちゃって、粘土みたいにぜんぶ完璧かな。
 明日雨が降らなかったら私のことをもう信じないでね。明日雨が降ったら私のことをもうずっと好きでいてね。でもそんなに簡単すぎると怒られてしまうよ。だれにだろう。でも怒られてしまうから。天気予報を当てるのなんて嘘みたいに難しいんだよ。ばか。ずぶ濡れになるよ。
 少し大きな駅に着いて、居酒屋とカラオケ屋の看板が光っているのを見た。私はレストランでアルバイトをしていたけど、その前はカラオケ屋でバイトをしていた。繁華街だったから高校生にしては時給がよろしくて、だけど長所はそれだけだった。店長は若くてガラが悪かったし厨房は鼻にピアスを何本も刺した人だったし、酔った客は店員に絡むし、煙草を買いに行かされるし、延長料金を頂きに行ったらカップルは楽しんでいるし、徹夜明けの客が帰った部屋はぐちゃぐちゃのめためただった。煤みたいな匂いがして、階段は狭くて急だった。私は学校で化学の実験をしながら、試験管の底に沈んだ意味の分からない赤黒い塊を、あの場所みたいと思った。あの場所は試験管の底の赤黒い塊みたいにブヨブヨで行き詰まっていて私はあのカラオケ屋を汚ないと思ったし思っているけど、店長は副店長と駆け落ちしていなくなってしまって私はとっても笑ったし、厨房の鼻ピアスの人は一番気さくだったよな、と思う。週末の夜じゃ忙しいだろうね、と思いながら家に引き返した。
 学校ではみんな大学の話をしていたし、バイト先ではみんな男女の話をしていた。どうして混じらないのだろ、って不思議だった。地球は人間をぐつぐつ煮込む鍋じゃない。一緒に放り込まれてたって触れも混ざりもしないんだ。空から降って来た少女が少年と出会って同居でもはじめればいい。
 終電は過ぎたはずなので、踏切から入り込んでちょっとだけ線路を歩いた。真っ暗だった。以前ともだちが、「線路を走ったら電車みたいなきもちになったよ」と言っていた。危ないよ、と言った。電車みたいなきもちなんかあるはずないよな、って思って、それは線路に騙されてるんだよ、って言った。「悪い線路だ」って言って二人で笑ったけれどなんの話をしていたのだか。線路を歩いたらあんまり真っ暗で悲しくなって電車にはライトがあるはずだもんって思ってすぐ引き返した。洞窟になりたい。内側に大きな湖があって、それは冷たくて、大きな魚が住んでいる。体の真ん中を風が塊になって出入りしていて、つるつるの鍾乳石が垂れていて。洞窟になりたいなあ。線路を出たらまっすぐ家に帰った。夏休みの深夜徘徊はとてもポピュラーな行為らしいから、見かけるコンビニの前にはかならず人が溜まっていて、スープが買えなくて、家に帰ってスープを作った。単調な味のスープだった。取り込み忘れた洗濯物がベランダで死んでいた。お風呂に熱いお湯をはったけど、食卓で寝てしまったのでした。
 起きたら昼だし体は痛いし浴槽のお湯は冷めていた。蝉がミャンミャン鳴いて昼も夜も鳴いて嘘だろって思って笑っちゃう。昼と夜を繋いでるものがあるなんてすごいな。蝉のせいで神様がいないんだよ夏は。神様殺しの蝉殺し。猫がどこかで捕まえた蝉の死骸でいつまでも遊ぶから怖い。鳴く蝉の流れは絶えずして、とか、くだらないことを考えていたら宅配便がきて、それはamazon様から兄宛てだった。生活だけあるのでそれはなんて豊かで欠乏していて、それだけだろう。なんてそれだけなんだろう。猫が遊んだ蝉の薄い、羽が、ベランダにばらばら。ゴミみたいだね。
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